「歯みがき剤はいらぬ」
インタヴュー
●虫歯になる年齢が早くなった
——片山先生は歯の治療にたずさわれて、もう50年になられるわけですね。
片山 そうですね……昭和8年からですから。
——当時の患者さんと今の患者さんとでは歯の状態にそうとう違いがありますか。
片山 やはり虫歯がどんどん若い方にね、たとえば3歳児でもう半分以上が虫歯になっているとか、それから歯槽膿漏なんか年寄りの病気のように言われていたんですけれど、これも30歳前から昔ではあまりなかった状態に進んでいる人が多いとか。
統計から見てもそんなふうに変ってきていることがわかりますし、どうも早くから虫歯や歯槽膿漏で歯が駄目になって、歯無しになる時期が早くなっている。——最近は、砂糖のとり過ぎということももちろんありますが、噛むということを子供がぜんぜんしなくなりましたね。噛まなければならないものは消化が悪い。消化が悪いものは体に悪いと短絡させてしまって、食べものをなんでもやわらかく食べやすくしてしまう。
これはある先生の話なんですけれど、イワシなんかも頭も尻尾も骨もとってしまって、身だけを子供に食べさせるので、この頃の子供はイワシがどんな顔をして、どんな尻尾をもっているのか知らないんですね。
それでその先生は、子供たちを夏休みにイワシの本場千葉の海岸に連れていって一週間、イワシを丸ごと食べさせた。
初めはイワシの頭を見てびっくりして気持悪がっていたのが一週間食べ続けて、最後の日に、もともと家で食べていたような身だけの料理をして出したら、「こんなんまずくて食べられん」と言ったそうです。
骨ごと食べるのがどんなに美味しいかがわかったのですね。
それほど今の食生活は、固い食品は消化が悪い、だから体に悪いと結びつけてしまう間違った観念が一般に禰漫していると思うんですけれど……。片山 その考え方は最近とは言えませんよ。
私自身、子供の頃、大正10年前後ですが、当時、衛生観念というものが入ってきて、清潔にということで、手洗い、入浴、着替え、そのほかの衛生問題と同時に、食べものについても固いものは不消化で腸によくない。
栄養のある消化しやすいものを食べよということが小学校あたりの指導方針としてとり上げられて、いろいろ注意していましたからね。
それがだんだん高じてきたというよりも、最近は、そういう栄養問題よりも調理の簡便性といいますか、できるだけ時間のかからん効率のよい、つまりインスタントに短時間に正確に多量に物を生産していくという流れに添ったやり方が生産全般に入りこんできて、食生活もそうなってしまった。
調理時間の短縮、それも生活の合理化というような暮らしが目立ってきたように思います。
以前はね、やはり手作りで処理して、という基盤の上に、衛生的、栄養的というのが大正から昭和の初めにかけての主流だったと思う。
あまり時間の効率ということはまだ家庭にまで入ってきていなかったように思うんですよ。——初めは交通機関なんかのスピード化とか物理的なことで始まるわけですからね。
片山 そうそう、そのあたりからね。
家庭のなかの効率化ということで、一番目立つのはやはり共稼ぎということですね。
これはね、戦争によって人手不足から生産部門に女性がどんどん入りこんでゆき、それが戦後の復興ということでそのまま続くと同時に、戦争の後というのは必ず女性の地位が変革されますから、共稼ぎということが普通になって、そのなかで食生活の簡便化が要求されるようになり、いわゆるインスタント食品とかレトルト食品のようなものが出てくる。
そうなると、やはり次には長期間保存に耐えるということが第一で、防腐剤とか低温処理、高温処理されるとかね。
その次には口に入れて味のいいものということで調味料が便われる。
まず甘味ですね。砂糖がいっぱい便われる。
甘みだけではしつこいのでグルタミン酸ソーダとかいろんな味つけが化学薬品で行なわれる。
そうなると、もともと本来の味というものが失われてしまって、口に入れたとたん美味しい味がついているから噛む必要がなくなってくる。——昔は噛めば噛むほど美味しい味が出てきたもんですよね。
片山 それから加工の目的の一つに、食べやすくするということがある。
つまり固いものはやわらかくするし、形は一口にすぐ口に入るようにするし、皮はむいてしまう。
そういうことが噛まずに飲みこんでしまう結果を生んだのです。
ですから、産業社会の発展と共に食べものが産業商品となって完成されていくと、逆に健康が損なわれていくことになるわけですね。
●風邪は癒えるが虫歯は癒えない片山 歯医者の仕事というのは、患者さんが口に入れたものをなんでも美味しく噛めるように治すということなんですけれども、実際、虫歯というのは、癒えて治ることはないんですね。
——そのうえ一度歯をとってしまえば、二度と生えませんしね。だけどそのわりには、ほかの体の部分より軽視しているところがありますね。
片山 左で噛めなきゃ右で噛めばいい。数も32本とたくさんあるし、1本や2本くらい無くなってもたいしたことではないという気持が働きますしね。それが5、6本無くなってくるとあわてるんですよね。
まあ、歯医者というのはね、たとえば、5つ、6つの子供の患者さんを受けもった場合、治療する歯が一生大丈夫なようにするにはどうしたらいいかということを念頭において、治療法のあれこれを適応していって、目的を達成させていくわけなんですが、ところが考えてみると、これは案外特殊な考え方なんです。
ふつうお医者さんというのは、風邪をひいたのを治すでしょう。
風邪がすっきりよくなればそれでもうおしまいですよね。
内科の先生が、その患者さんに一生風邪をひかんようにというようなことは念頭にありませんよ。——そうですね。
片山 歯医者へ来た患者さんは、一生これ持ちますかとか、これどれくらい長持ちしますかとよく聞くんですが、風邪を治してもらって一生持ちますかとは……。
——言いませんね。
片山 ということは、風邪は癒えて治るからなんです。回復力があるから……。
ところが歯を治したということはね、結局、包帯をしたということでしてね。
その包帯がとれたら穴があいたままです。つめものがはずれたらすぐ痛むでしょう。
3年もつめている間にケガと同じように皮が張って、外れても、包帯をとっても大丈夫というようには絶対にならんのですよ。
前のとおりなんです。ですから、それを知ってか知らずか患者さんは、一生これ持ちますか? 修復物(実は包帯と同じ役目をしているもの)でちゃんと機能しますか? とか聞きます。
医者の方もちゃんと理解しての受け答えなのかというと、その辺のところが非常にあいまいなんですよ。
どうすれば長持ちできるかということは、癒えていない組織が再燃・再発しないように予防するということで、それは治療とは別の問題としてとう取り扱う。
治療するのは開業医の任務だけど、予防するのは行政なんだと、別のものみたいに考えているんです。
行政ということであれば、それは厚生省の仕事、公衆衛生としてやるわけですけれど、ところが、虫歯や歯槽膿漏の原因菌というのはコレラや結核の菌、チフスの菌のようにはっきりしていない。
予防するためには感染経路がはっきりしていなければ、それを断つことはできんわけです。
ですから予防法というものが確立出来ない。——虫歯の菌というのはいろんな種類があるということですか。
●口の中のエコロジー片山 そうなんです。
だけど最近、完全に無菌動物飼育ができるようになって、その飼育の過程で、一般の人の口の中にある菌を培養してその1種類だけを植えつけることができるようになったために、どの種類のパイ菌が虫歯にする力が強いかというようなことがわかってきて、ミュータンスという菌が一番力の強い菌だということもわかってきたのです。ところが、それを人間の体に植えつけても、つかない人がいる。
また、それがいても虫歯を起こさない人もいる。
逆にそれが少なくてもほかの菌と一緒になって虫歯になる人もいる。
だからやはり、混合感染といいますか、菌相互の間の力関係によって虫歯ができる。
それと同時に体の抵抗力が問題になりますね。
ですから犯そうとする菌の側とそれを保有している宿主の体の力との間の関係ですね。
健康保菌者というのがあるでしょう。菌を持っているけれど症状を出さん。それでいて、その人は他人への感染源になっておると……。——本人は病気にかからず、他人がかかる。
片山 ですから口の中に常住している菌たちのエコロジー(相互関係)をね、悪い方に変えていかないで、いい方に変えていくということが一番大事なことです。
それは昔虫歯が少なかったときには自然にできていたんですね。
なぜかというと、歯のほうも丈夫であったし、口の中のかき回しもうまくできていた。
つまり、固いもの、繊維性のものをガチガチ噛んでおったから。
そうすると、その栄養的な条件で歯も丈夫になるし、2度3度噛むことによってひっかき回されて、歯くそはそれでもわずかには付いているんだけれど、歯を磨かなくても虫歯の無い人が一杯いたわけですよ(笑)。——確かにね、正食やっている人は歯を磨かなくてもいいみたいですよ。
私もね、正食する前までは、虫歯で3年ごとに奥歯を抜いて、4本も抜いたんですけれどね、それが6年前に正食をやりだしてから、肉は食べないし、砂糖も全然やめてしまって、できるだけ生のままで、固いままで丸ごと食べる。
コーヒーも飲まなくなって番茶だけでしょう。
そうしたらピタリと虫歯が無くなってしまって、以来一度も歯医者さんへ行ってません。
歯医者さんには悪いんですけれど(笑)。
ですから、食べものを変えて、よく噛めば、テキメンに、抜いた歯は元には戻らないけれど、あとは二度とかからないということですね。片山 そのことは歯医者もよくわかっているんですけれどもね。
ところが、歯医者で歯の治療を受けた翌日から玄米正食に取り組んでもらえるというチャンスがなぜ持たれないか。
仮にですね、患者さんにあなたに虫歯ができるのは、食べ方が悪いから、砂糖をとり過ぎるから、軟らかいものばかりを噛まずに飲みこんでいるから、食べものが悪いからと言ったとしても、ですね。
「あんた、私は歯を治してもらいに来たんや、そんなこと別に話してもらいに来たんとちがう。ちゃんと治してくれたら、それでいいんだ」と誰もがそう思うでしょう。
思うだけでなく、この医者は自分の技術のヘタクソをカバーしとるのと違うかと思いたくなる。
まあ、それほどまでに患者さんと歯医者の開の信頼関係が薄れているんですよ。へたに説教をすると逆作用になる……。
●正しい医療とは?片山 しかし正しい医療というのはね、歯医者の治療の場合は、治すための詰め物や被せた歯を自分の歯のように長持ちさせる技術を持つことと、歯を悪くする患者さんの側の原因を、正食に戻って、無くしてもらう、その不十分さを歯ブラシで完全に補う、というこの2つができなくてはいけない。
そうすれば二度と悪くならない。つまり風邪ひきが治ったという形になるわけです。
そうなってこそ、医者としての役目が果たせたということになるんですね。患者さんの暮らし方の中で悪くなる原因をとり除くということは、ただ正食に戻ってもらうだけじゃありません。
運動の問題も呼吸の問題もあります。それを一緒にしたものが。エアロビクスですね。
それだけじゃない。やはりストレスですね。精神的なものも関係します。
ストレスの少ない気持に自分の生活をもっていってもらう。
そういう方向に患者さんを変えていかなければ、いくら良い処置をしても再燃・再発必至で決して長持ちは望めない。——そういうことですね。しかしまあ、歯医者さんに限らず、今の医者と患者との関係は同じようなもので、患者は自分のめちゃくちゃな食生活には無関心で、医者だけに頼り切っている。
片山 医者の方もまたそんなところをつきませんよ。たとえ言ったって患者は聞いてくれない。
だから、そんな関係の中にあって、それでも病気の原因を患者さんの生活の中から少なくしてゆくように持っていくには、いったいどうしたらいいのか。
それこそが現代医療の大事なところなんですよ。
そのことに気がついて、私はもう20年も前からそれをやってきて、私のところの患者さんはほとんど全部正常に変わりますね。
つまり、100回は無理としても50回は噛む。できるだけそのものの姿で丸ごと食べる。
できるだけ旬のものを、その上地でできたものを食べる。
できるだけ食品に含まれている化学物質を少なくする。そういうことを皆やっている。
結果としては、よそへ行ったら抜かれてしまう、もう駄目だという歯も助かるということでね。
どこへ行ってももうあかんと言われる歯が10年も15年も助かって使える。
それを患者さんにやってもらえるように持っていくことがうちではできている。
それはいったいどうしてそうなるのか。それがやたらと、この頃注目されるようになりましたね。
その講義を受けたいというのが、いま増えてきたわけです。こんなことは大学ではやらんのですよ。
歯医者さんはたくさん学校を出ていきますけれど、人としてどうやって食物を正しくとれるように患者さんをしむけるか、なんて講義は一度も受けたことがないんです。——食べものを噛む歯の医学にしてそうなんだから、まして他の医学においてをやですね。
●歯みがき剤に頼ると虫歯になる
片山 そこでどうしたらいいかということなんてすが、歯医者へ来る患者さんの100人が100人とも、2度と歯医者へ来んようにしたいと思っています。
つまり、虫歯や歯槽膿漏になりたくないという願いは持っているわけです。
要求はあるんですから、そこで黙って虫歯にならない方法が教えられたらいいわけですよね。
歯が汚れているから歯が悪くなるということは今ではだれでもが知っているんです。
だけど自分の歯が悪くなった原因は、もうひとつはっきりしないわけです。
そこで虫歯の人なら、さっき洗ってきたばかりできれいだと自分では思っているその歯の横をちょっとこそげると、ほんのわずかですが何かつくのです。
それを顕微鏡で見てもらう。
それがご飯粒のカスだったら炭水化物の標本ができるわけですが、そんなものは出てきません。
多種多様のバイ菌がピンピンうじゃうじゃしている姿が出てくるんです。
それをテレビにモニターして見せる。
今とったばかりのわずかなものの中にあんなのがいる、あれが病気の元かと誰でも認識できる。これが第一……。——それは確かにショックですものね。
片山 われわれはその菌の種類によって対処する方法を考える。だから的確に処置方針が決まってくる。
同時に患者さんのほうはいつもより熱心に洗ってきたのにまだあんなに残っている。
これは洗い方が悪いんだ、もっと効率よくとれる方法はないものかと考える。
これはちょっと洗い方を変えればきれいにとれるんですよ。——どうすればいいんですか。
片山 まず歯みがき剤を一切使うなということです。使うからこうなるんです。
——なぜでしょう?
片山 歯みがき剤を使うのは口の中をさっぱりしたいからでしょう。
さっぱりしたら清潔になったと思う。
そのために味がつけてあり、匂いもつけてある。
つまり、さわやかな感じを与えれば、錯覚を起すんですね、虫歯の原因になるものがそっくり残っていてももう済んだと思ってしまう。——感じだけでね。
片山 そうそう。こんな実験があるんです。
小学校3年生の2クラスにね、1クラスは歯みがき剤をつけて、もう一方はブラシだけで何もつけずに歯を磨かせ、きれいになったと思ったらこっちへ来いと、先生が待っていて歯を染めてみたら汚れがとれているか、とれていないかすぐわかるんです。
そうしますとね、歯みがき剤の方はどんどん来ますが、もう一方はなかなかきれいになったと言ってこない。
歯みがき剤を使わんときれいにならんと思っているから当然でしょう。
あとで染めてみたら、歯みがき剤を使った方は、使ってない方の半分以下しかきれいになっとらんのです。
だから歯みがき剤を使うと悪くなる一方なんですよ。
それに歯みがき剤使ったらウガイをしなきゃいけない。
あれ飲みこんだら大変ですよ。
界面活性剤など化学薬品がいっぱい含まれていますから体にも悪い。
さらに悪いのは歯みがき砂が入っていることです。
これは燐酸カルシウムの細かい果粒なんてすが、これは研磨剤です。
これが入っているために、洗い方を無意識に一定方向にやっていますと、それが削れの跡を残す。傷だらけになる。
それにいろんな色素性の沈着物がつくわけです。それでまたよけいにつけてこする。
ブラシだけだと唾液の中のカルシウムが表面に沈着して傷をいやしていく作用があり、その傷がとれてゆく。
ガラス面になって、もう汚れがつかなくなります。——唾液の効果はそれだけですか?
●唾液の効果を考え直せ片山 だ液の効果はそれだけではないのです。
1日に最高、1500ml(ビールの中瓶3本近く)出るのです。それは何処から出るのか? 身体の中の液体成分を唾波線で唾液にして口の中に出してくるのです。
1日にビール瓶中瓶1本分の水気が唾液として出れば、そのために身体はそれだけの水気が減る。
もし身体の外に出てしまったとすれば、喉が乾いてすぐ補おうとするでしょう。
だからその唾液は呑み込まれると同時にすぐ吸収が始まる。
それと同時に唾液の消化酵素が、消化した栄養分も吸収されます。吸収のエンジンがかかることになります。
よく噛むことによって唾液が出てきて、食物がその唾で消化され、身体が脱水状態を回復しょうとして吸収を始めるのです。
噛まないで呑み込むと食物だけです。消化も不士分だし、水気いっぱいの身体は、吸収しょうとする力が強く働きません。結果は多くそのまま出てしまいます。
清潔な口腔で、新鮮な唾液をつけてブラッシングすることは、より一層唾液を引き出すし、唾液の中に含まれる消化酵素以外の重要な病気を防ぐ免疫物質としてリゾチーム、免疫グロブリンAなどが、歯と歯ぐきに擦りつけられることで病気を防ぎ、治す働きを高めるのです。
●できるだけ固いものを食べよ——歯ブラシの使い方はあるんですか?
片山 歯と歯ぐきの状態によってみんな違います。
たとえば小学校から中学校に入って、歯が生え変わったときは、歯と歯の間にツマ楊子も通らないほど表面がフラットになっている。
そこにツマ楊子が入りだしたら凸凹になってきたということですね。
そうなったら、そのミゾの間を洗わなければ何にもならない。間に入れこむような洗い方をする。少し柔らかめのブラシを使ってね。——子供のフラットな時期だったら上下にこすっていたらいいわけですね。裏側は?
片山 裏側もやります。
歯が完成した一番いいときは、17、8歳のころですが、この状態をずっと保っていくためには、やはり鍛練しなければ駄目です。
そうしないとだんだんダウンしてしまいます。ですから、どんどん固いものを食べて噛むことです。
そうすると歯の表面も根や、それを取りまく骨などの組織が強くなる。
これはブラシだけでは出来ないんですよ。
固いものを噛みしめる。それだけでなく、牛のようににじらせて横にこすり噛みする。それがアゴを丈夫にするんです。よくよく噛むことによって脳の発育が促進されるといわれています。
——だから固い繊維性の食べものを食べないといかん……。
片山 だけど、歯の間がすきだしてきてからでは駄目ですよ。
もう弱ってしまっているのですから結核で熱だしている人に、ジョギングさしているのと同じで、そんなのは手遅れで無茶です。
それにはその時に合ったように徐々に力をつけていくようにしなければね。
要するに正食に戻すのを歯医者から指導されたと思わず、自ら気づいて戻してゆくというふうに仕向けなければいけないわけですよ。
それが歯だけでなく、全部の病気を治していく根本になる。——食生活を変えるというのは非常に意識革命みたいなとこがあるでしょう。
片山 ものすごい生活革命です。
——だから、これでしか助からんという段階でないとすんなりと正食をしない。
しかもそれも薬的にしか考えていないから、病気が治るとまた元の食生活にもどってしまう人が多い。片山 そうです、そうです。
だから「病気のない若い者にはやらす必要はない」なんて、とんでもないことを言う人もありますよ。
病気を治すためという観念だけで正食を考える、食事療法としてしか考えない。
これは駄目です。やはり自分の体のあり方をちゃんと理解して、それに向いた生活をしていくということですね。
根本には文明批判がありますよ。——やはり先生もどこかで書いておられたように、医学の哲学というものを持って、とくに今はお医者さんに頼りきっている人がほとんどですから、お医者さん自身が意識革命をしていってもらわなあかんということでしょうね。
片山 そうですね。
だからそれに一番とっかかりとして必要なのはどこかと言えば、歯科医でしょう。
歯医者がやる気になれば、その意識革命も、子供から女の人からお年寄り、熟年層の人だって、思春期の少年たちにも皆にやれるんです。
正食に戻していくことを一番やってやりやすいところ、これは歯科医です。
だから歯科医が考え直してやれば、体全体が治せるんです。
ですから、これからの歯科医の任務というのは、内科の先生が患者を治すについて、まず歯科の先生に診てもらうべきなんてすね。
歯を治すことはもちろん大事だけれど、その時に正食ということもやってもらえれば、それで内科の病気もどんどんよくなっていくんですよ。
歯医者へ行って100回噛んで食べれるように口の中と食べ方を治せば、病気はもう半分治っているはずです。——そういうことですね。どうも本日はありがとうございました。
正食協会「噛み方健康法」より転載